black-crab

ブラック・クラブ / 娘に会うために。理由はそれで十分だった

スウェーデン発の作品とあって、その土地特有の寒さや厳しさが切々と訴えてくるような作品だった。
激しさや見栄えはないけれど、人間の意思の強さを前面に出していた。
愛する者を探すため、愛する者に再び再会するために、一人の女兵士は任務の完遂に全身全霊をかけていた。
それは彼女を動かすために強い動機にもなれば、彼女の弱みでもあった。
軍の上層部は任務を遂行させるために、甘い餌と引き換えに危険なミッションへと向かわせる。

エドという女兵士は、ヴァニヤという一人娘がいた。
彼女はもともと兵士でもないただの一般人だったが、逃亡しているときに敵方の兵士に見つかってしまい、大事な一人娘をさらわれてしまう。
その後彼女は兵士となり、さらわれた娘の行方を捜していた。
エドは生き残るために兵士となり、昔は一般人とは思えないほどの立ち回りで敵を倒していく。
そんな彼女の元に、ある危険なミッションがいい渡される。

戦況はかなり劣勢だった。
最後の砦も陥落寸前となり、壊滅は免れない。
軍の上層部は最後の手段として、100里離れた施設にある小包を届けて欲しいといい渡す。
海面が氷に覆われた氷上を、敵を迂回しながらスキーで進んでいく。
いかに厳選されたチームだとしても、生き残るのはごくわずかだと見積もられていた。
軍の上層部は、最後の希望をそのわずかな期待にかけていた。

軍が最後にかけた希望、小包の中身には、小さな瓶に入ったウイルスが梱包されていた。
軍は敵に殺人ウイルスを仕掛けようとしていたのだ。
もしウイルスがばらまかれてしまったら、被害は敵だけでなく、味方にも広がる恐れがある。
軍は敵味方を全滅させて、戦争を終わらせる気だった。
チームのメンバーは軍の恐ろしい企てに反対だった。
皆は氷の下に投げ入れて無かったことにするべきだと声が上がる。
だがエドだけは違った。
彼女は必ず小包を届けるために、目的地に行くことを譲らない。
なぜなら、彼女は到達地点に娘がいる、と出発前に聞かされていたから。
だからどうしても、何があっても辿り着かなければならない。
エドは、ただその想いだけしか残っていない。
たとえ仲間が邪魔をしたとしても、エドには使命が最優先だった。

軍は娘に会えるという餌で、エドを危険なミッションへと駆り立てた。
それはただの餌にすぎず、事実ではなかった。
軍にとっては、人間の心よりも作戦の方が重要だ。
任務のために動いてくれるなら、どんな情報でも利用する。
エドは娘に会いたい一心で、危険な殺人ウイルスを遠くまで運んだ。
娘を探し出すために、人の道理に背いてまで任務を遂行した。
だがその見返りはただの幻想だったのだ。
エドは生きる希望をなくした。
でも、このまま引き下がるわけにはいかない。
ウイルスが散布されたら、敵も味方も全て死んでしまう。
もし、娘が生きていたら、ウイルスによって死んでしまう。
それだけは何としても避けなければならない。
自分の愚かな罪で、娘を殺すわけにはいかない。
エドは最後の力振り絞って、ウイルスを処分するために立ち上がる。

極寒の大地の中で、寒さに耐えながら氷上を滑っていく。
真冬に観たら避けに寒くなってしまいそうで、個人的には苦手だ。
寒そうな映画は、暖かい時期に観るに限る。
敵に見つからないために、基本的に行動は夜に行う。
寒々とした氷上を、暗い中滑っていく。
戦争は人を不安にさせ、疑心暗鬼にさせ、人道を離れていく。
暗い場面がよけいに鬱々さを引き立てる。
娘のために、という母の思いが、人をこんなにも強くさせるんだなと感じた。

その他の記事