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少女地獄 / 少女が織りなす不気味な物語たち

「少女地獄」という何だかおどろおどろしいタイトルだけど、どちらかといえば全体的に悲劇的な少女が多く感じられる、全 6つの中・短編小説。
夢野久作の傑作選として掲載されている本書の小説の中で、『氷の涯』がまぁ普通に読めるミステリーで、そのほかの物語は比較的暗くてジメッとした内容のものが多いと感じられた。
夢野久作といえば暗めのものが多い、という印象が前に読んだ『空を飛ぶパラソル』でなんとなくわかっていたものの、作画傑作選だからか、夢野久作のゾクッとする度合いが濃厚に感じられた。
ざわざわするようなダークサイド系が好きな方は、夢野久作を好きになるのでは、と思う。
ちなみに『少女地獄』とは、『何んでも無い』『殺人リレー』『火星の女』の 3つの作品が集まったグループのタイトルのようだ。

死後の恋

最初に掲載されている『死後の恋』は、ロシアに滞在していた日本人男性に、ロシア人の男性が「私の話を聞いて信じてくれるか? 信じてくれたら財産をすべてやる」と話しかけるところから始まる。
いろんな人に話して回ったのに、誰も話を信じてくれないという。
よし、とりあえず聞いてみようじゃないかということで、ロシア人男性の戦争の体験談を聞くことになるのだが、彼が経験した恋の内容と、戦争によって失った失恋の物語。
彼の戦友は戦争の犠牲になり、敵に残酷に殺された仲間のグロい状況が詳細に聞かされるので、想像しただけでも身の毛がよだつほど。
話を聞き終わった日本人男性は、ロシア人男性の戦争体験と恋の話を信じることにした。
やっと信じてくれる人が現れた! と喜びに湧いたロシア人男性は、全財産の宝石をあげると言ってくるのだけど、その宝石が曰く付きのもので、とても受け取る気にななれずその場から逃げ出してしまう。
そりゃあ誰だって死体の腹から回収した気味の悪い宝石をあげると言われたら、受け取りたくないだろう。
どれほど価値のある宝石だったとしても、出所を知ってしまったら怖くなるに違いない。

何んでも無い

次に印象的だったのが『何んでも無い』。
ある開業医のところへふらっと現れた一人の少女。
少女とは言っても 10代後半の見た目だが、本当は 20代の半ばに差し掛かっている女性。
彼女は病院で看護婦として働いていた過去があるようで、何かの事情で開業医のところを訪れ、仕事をもらえないかとやってきた。
医師は家族経営だったので、家族と相談して彼女を雇うことに決めた。
その女性はよく気が効く女性で、看護婦としての腕もさることながら、愛嬌もよく、彼女はマスコットキャラのようになり、彼女に会うために病院へ訪れる患者が増えるようになった。
開業したばかりの医院は、彼女で持っていると言っても過言ではなかった。
そんなある時、彼女がふと言った一言が、医師と彼女の運命を狂わせることになる。

彼女は開業医の元先生と顔なじみだということが判明し、「ぜひ君から連絡して、再会できるように手を回してくれないか」と開業医は頼み込む。
しかし顔なじみというのは彼女がついた嘘だった。
彼女は自分が言った手前引くに引けず、嘘の上塗りを重ねることになる。
元先生と予定を合わせたかと思うと、当日にドタキャンされ、それが 3回も立て続けに起こる。
怪しんだ開業医が知り合いの警察に彼女を取り調べてもらうと、彼女は身の上から何もかも嘘で塗り固めたものだったことが判明する。
田舎の出身を隠したい、少しは教養を持った女性だと見られたい、という自己顕示欲が強く、承認されたい気持ちから、自分を大きく見せようとするあまり、嘘をつき続けたのだろうか、と思いを馳せる。
嘘をついてまで自分が認められたいという気持ち、なんとなくわかるなぁと感じた。
何んでも無くはなかった。

氷の涯

『氷の涯』は、ロシアに駐屯していた日本軍の金庫から、軍資金が盗まれてしまうミステリー。
暇で暇であくびが止まらない一等兵は、軍資金が盗まれた事件を知り、独自に調査を開始することになる。
軍資金を持ち逃げしたのは内部の人間に間違いなく、行方をくらましている 2人の人物が怪しいと上層部は見ている。
逃げ出したところで、周りは敵に囲まれており、電車で逃げれば軍が目を光らせているだろうし、かといって街を避ければ敵軍が潜んでいる領地に入ることになり、どちらにしても危険である。
ではもしかして近くに潜んでいるのではないか? 誰か内通者が匿っているのではないか? と考える一等兵だったが、まさに彼の推理は当たっていた。
内通者は敵軍とつながっていて、日本軍の資金を敵軍に渡す予定だったが、一等兵が内通者を殺し、屋敷を全焼し、お金も塵と消えてしまったので、敵軍 (ロシア) からも追われることになってしまう。
さらに一等兵は敵軍の思惑に振り回されることになり、持ち逃げした犯人として日本軍からも追われることになる。
一等兵は少女の導きで運良く逃げ出すことができたけれど、追ってから逃れるために、死を覚悟して危険な航海に出ることになる。

この一冊だけでもかなりのボリュームはあるし、それぞれの独特の世界観に引き込まれていく。
けっこう精神的にくる内容が多いので、心理的に弱っている時には避けたほうがいい著者ではないかと思う。
でも、そういうところがまた癖になってしまいそうな作家ではある。
不気味だけど面白い。
それが夢野久作の魅力だなぁと感じる。

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