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オリヴィエ・ベカイユの死 / 死んだはずの男は墓の中で蘇る

著者ゾラの複数の短編小説を集めた一冊。
表題の『オリヴェエ・ベカイユの死』は、役所の仕事をするために、田舎から都会へ出てきたオリヴェエ夫婦の話。
病弱な体だったオリヴェエ・ベカイユは、都会に出てきてから体調を崩し、そのまま悪化して死んでしまう。
しかし、オリヴェエの魂は死んでおらず、幽体離脱したままの状態だった。
彼は魂の状態のままその場に居座り続け、自分が死んだことで妻が動揺していること、管理人のおばさんが色々と世話をしてくれていること、お隣の男性が未亡人となった妻を慰め距離が近づいていることなど、身の回りで起こっていることを全て見ていた。
しかし彼は霊魂の状態なので、話しかけても人々には聞こえず、物体に触って鑑賞することもできず、妻が悲しみに暮れ、男が言い寄っても阻止することもできず、管理人のおばさんが迷惑そうに色々言っていることに反論することもできず、なすすべもなく、ただ見守ることしかできなかった。
とりあえず死体を埋葬しなければならぬということで、葬式の用意が着々と進み、彼の死体は墓地に埋められることになった。
それでもオリヴェエは成仏することなく、現世に留まり続け、霊魂のまま自分の死体が埋葬される場面を見守っていた。
棺が埋葬され、土が被せられたタイミングで、彼は意識を取り戻し、生き返ってしまう。
しかし棺に閉じ込められ、土が被せられているので簡単に脱出することができない。
やっとの思いで生き返ったのに、どうすることもできないまま、今度は本当に死んでしまうのか。
彼は棺の中でもがきにもがき、いろいろあって棺から脱出するという奇跡を成し遂げる。
彼は妻に会いたかったが、驚かせてはいけないと思い、ひとまず様子を確かめに行くことにした。
しかし時すでに遅く、妻はお隣の男性と一緒にどこかへ旅立ってしまった後だった。
オリヴェエはそれも仕方なしと諦め、その方が妻も幸せなのかもしれないと考え直し、彼は一人で生きて行くことにする。
彼はもう失うものは何もなかったので、いつ死んでもいいと思っていた。
だが運命のいたずらなのか、死んでもいいと思っているのになかなか死なず、意外と体も頑丈になってしまったという嬉しいようで嬉しくないような顛末。

生き埋めの恐怖

もうちょっと早く生き返っていれば、特に墓に埋葬される前に生き返っていれば、妻を取り戻せたかもしれない。
でも、墓に埋葬されてから生き返ってしまうというところが、運命の残酷さを物語っている。
棺の中はあまり動くことができないし、空気も薄くなってくる。蓋を突き破れたとしても、上から土が降ってきて生き埋めになってしまう。
空気が薄まり、呼吸が困難になり、大声を出しても人がいなければ気づいてもらえず、苦しさのあまり蓋を引っかきながら、じわじわと死が迫ってくるのを感じ、絶望の中で息絶えていく。
そんな生き埋めの苦しさを味わうタイミングで生き返ったというところが、なんとも皮肉な展開だ。
さらに、無事脱出できた彼を待ち受けていたのは、妻が他の男に連れられて行ったこと、伴侶を失い失うものがなくなって、いつ死んでもいいと思っているのに死なないことが、人生の皮肉さを描いているのではと感じる。

他にも幼い少女の幽霊が出るというホラー要素強めの『呪われた家』、
出世の野望を抱いていた青年が、ふとしたことから資産家の娘と結婚し、みるみる野望を叶えていく『ナンタス』、
子供ができない夫婦が貝を食べることで妊娠しやすくなるという噂を聞きつけ、浜辺がある田舎町に旅行した際に、町の青年と妻が隠れて不倫し、子供を授かるという『シャーブル氏の貝』、
夫の作品を少し手伝っていたら、いつしかほとんど自分が作品を仕上げるようになり、夫の名前で作品を公表し、何も知らない世間から賞賛を浴びていた画家の夫婦『スルディス夫人』など、魅力的な短編が収められた一冊。

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