manon-lescaut

マノン・レスコー / 駆け落ちした先にあったのは過酷は運命

ぼくは恋はしたことがあるけど、ここまでの恋をしたことはない。
すべてを投げ捨ててまで、恋人と一緒にいようとは思わない。
たとえ路頭に迷うことになり、ボロ布を纏うことになっても、恋人と一緒にいさえすれば、どんなこともきっと乗り越えられる。
たしかにそういう人もいるんだろう。
わからないといっておきながら、激しい燃えるような恋をしてしまったら、実際どうなるかなんて予想がつかない。
だけど、しらふで今いえることは、多分そんなことにはならない。
どこかでブレーキがかかって「おい大丈夫か? 冷静になれ。お金がなければ恋も長くは続かないぞ」と、理性が現実を呼び覚ましてくれそうだ。
なぜこんな話になったかというと、この小説を読んで、どうしようもなく激しすぎる恋に胸を打たれたからだ。
この小説は恋愛の物語。そして悲しい結末の物語。

登場してくる青年は、良家の生まれで家族にも恵まれ、素質の高さから頭もよく、将来有望な出世頭だと思われていた。
まだ 20歳そこそこの青年なのに、出世するだろうと期待されている注目株。
そんな彼はある日、修道院に預けられようとしていた 10代後半の女の子を見つけ、その瞬間にビビビッと一目惚れしてしまった。
とりあえずお茶でも飲まないかとカフェに誘い込み、すっかり意気投合した 2人はそのまま駆け落ちしてしまうのだ。
この展開の速さにも驚きだが、将来のことなどお構いなしに恋の衝動に身を委ねるのは、若さゆえの行動だからだろうか。
青年は家族の期待を投げ出してしまったけど、それでもなにか困ったことがあったら父親が助けてくれるだろう、
と楽観的である。
彼には親友がいたが、この親友もまた青年の恋ゆえの行動に振り回される。
しかし心を許した青年のため、最後まで見捨てない情の厚い親友でもある。
この親友、お金がないから貸してくれと頼まれれば、少ない給料の中から工面してやり (それも何度も) 、アメリカまで流れ着いた青年を迎えに行く気前の良さを持っている。
よくもまあ見捨てられなかったものだと感心してしまう。

当の駆け落ちした彼女はこれまた奔放な性格で、退屈を感じたら死んでしまう、どんなときも楽しく人生を過ごしてみたいというわがままっぷりで、お金があればあるだけ使ってしまう。
18〜 19世紀のヨーロッパは娼婦がまだ公にいた時代で、美貌に優れた女性はお金持ちの貴族から愛人として囲まれていた。
それも何人もの貴族を虜にしていた。
この彼女も娼婦のようにお金には目のつけない性格だった。
しかし駆け落ちした 2人はお金を持っていなかった。
だから彼女は娼婦として愛人にしてもらう代わりに、活動資金を得ようと画策する。
こんな状況を青年が黙ってみているわけにはいかない。
恋は焦がれ、胸は張り裂けんばかりに嘆き、彼女を取り戻そうと奮闘する。
駆け落ちを見かねた父親が青年を家に引き戻すも、彼は彼女に会えない間、生きる屍のように生気を失っていた。

この 2人、何度も何度も引き裂かれる運命にあう。
まるで神様は 2人が一緒にいるのが面白くないとでもいうように。
実際青年も途中で嘆いている。
時には詐欺を働いて牢屋にぶち込まれ、時には金持ちの男の子に鞍替えし、彼女の奔放さに振り回される青年。
一瞬恋心が冷め、憎しみが込み上がっても、彼女の前では鬼になることができず、ひざまずいて許しを乞う。
彼らはお金を得るためにとある老伯爵を騙してしまい、老伯爵と因縁の関係になってしまう。
2度も老伯爵を怒らせてしまい、しまいにはアメリカへ労働力として流されることに。
囚人として鎖に繋がれた彼女は精魂尽き果て、見るも無残な姿へと変わり果ててしまう。
生涯付き添うことを心に誓った青年は、最後まで彼女に付き従い、心の支えとなる。
彼女は散々自由気ままに行動し、青年を何度も裏切ったが、尽きることのない愛情に感激し、生涯青年を共に生きることを固く誓う。
このあたりの描写がいたたまれなくなるも、純粋な恋愛に心を動かされる。
アメリカに流れ着いた 2人は、町の統治者に気に入られ待遇は良かったものの、その息子に彼女を狙われる。
身の危険を感じて町を逃げ出すも、周りは果てしない砂漠。
ついに彼女は心労から事切れてしまう。

出会い、恋してしまったことで誰からも支持を得られず、(途中理解者が現れ協力してくれるが) 波乱に満ちた人生に狂い、穏やかな生活は僅かしか過ごせなかった。
一時は郊外で質素な生活に順応していたが、彼女の美貌と天性は世間が黙ってはくれず、結局パリの華やかな都市へと舞い戻らせてしまった。
駆け落ちなどせず、家族の理解を得られたのなら一緒に暮らせていけたのかもしれない。
身分の違いを超えることができなくても、なにか別の形があったかもしれない。
もっと大人だったら自分たちで対処できたのかもしれない。
過ぎてしまったことを嘆いても仕方がないけれど、駆け落ちは当人を苦しませることになるのは、今も昔も同じなのだろう。

この貴族と娼婦の恋物語は、この時代にたくさん描かれているようで、この小説を参考にした物語も多数出ているようだ。
そのへんの小説も読んでいるので、今後紹介したいと思う。
超えられない立場の壁が立ちはだかっている方が、恋愛を一層激しく燃え立たせるのだろう。

その他の記事