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「いいね!」戦争 / 世界の分裂を容易にしたソーシャルメディアの光と影

ソーシャルメディアが世界に広がってからは、誰もが簡単に、手軽に情報を発信できるようになった。
もちろん SNSアプリだけではなくて、iPhoneの登場によって広まったスマートフォンが、誰でもどこにいてもすぐに情報を発信できるようになった。
情報化社会と言われている 21世紀は、情報を持っている者が有利な立場に立てるようにもなっている。
誰にでも簡単に情報を発信できるということは、情報の拡散を狙って戦略的に発信する者も現れてくる。
広まりやすい情報の性質を逆手にとって、意図的に情報を流し、世論を誘導しようと企む者も現れてくる。
本書では、そんなソーシャルメディアのダークサイドな部分にスポットを当てて、情報の氾濫の危険性に着目している。

手軽な拡散ツールの代償

SNSは誰でも簡単に始めることができる。それは一般人だけではなくて、組織でも、政治家でも、宗教家でも、危険思考を持った人でも、誰でもがアカウントを開設して、すぐに情報を発信できる。
その手軽さと SNSの性質を利用して、中東では ISISというテロ組織が戦争を誘発し、処刑や紛争をリアルタイムで流し、同じ思想を持つ同胞を世界中に持つことができるようになった。
アメリカでは、トランプ大統領がツイッターでつぶやき続けることによって、ダイレクトに支持者を集めるとこができるようになった。
戦争の同胞を集めるのも、政治の支持を集めるのも、一昔前では大変な苦労をかけてキャンペーンをするなどして、ようやく共感者を獲得していくような大仕事だった。
しかしソーシャルメディアが世界に広まり、世界中の人が片手で情報を拡散・収集することができるようになったことで、自国だけでなく、ありとあらゆる人に情報を発信し、共感を獲得し、仲間を増やすことができるようになっている。
その手軽さを利用して、政治や戦争の対立を煽るのは簡単になってきた。

本書ではテロ組織や国家のことを中心に書かれているが、政治やマスコミなども含め、世の中に出ている情報の全てが「真実」ばかりではないことを気に留めないといけない。
中には「嘘」の情報も発信され、偽情報によって世間を扇動し、戦争や対立を起こすことも簡単できてしまう。
情報戦となれば、国家ぐるみで仕掛けてくることもあれば、有志が集まって自発的に誘導してくることもある。
ソーシャルメディアは一人が複数のアカウントを作るのも簡単にできてしまうため、それぞれのアカウントで身分を偽りながら危険思想を拡散し続けることも可能だ。
多くのフォロワーを獲得できれば、それだけ情報も拡散され、多くの人に思想を届けることができる。
偽情報が拡散されれば、それが真実となって現実を動かすことになり、人々を混乱に陥れることも簡単にできてしまう。
デジタルの中で起こっていることが、結果として現実の世界に返ってくる。
真実と嘘が混在していれば、何が本当で何が虚構なのかもわからなくなってくる。
一つの考えに多くの人が賛同しているから自分も支持しよう、と人は流されやすくなる。
だが、その情報が組織ぐるみで意図的に拡散しているかどうか、一目で確認することは難しい。
テロ組織や政治家の下請けが発信して、多くの人が支持してしまえば、相乗りしてくる人も出てくる。そうなれば世論を扇動することも容易になる。
その情報は信じられるものなのか、見極めることはとても難しい時代になっているんだな感じずにはいられない。

情報の選択

人々は自分が支持できる思想を支持するし、自分が信じたいものを信じるようになる。
ソーシャルメディアは、そのような似た考えを持つ人々が集まるのも簡単にできる。
そこで注意しなければいけないのは、同じ考えの中に浸っていると、自分たちの考えこそ正しいと思い込むようになり、他の違う意見を受け入れようとしなくなる。
全てのグループや人が、他の意見を受けれようとしなくなれば、それぞれの間で対立が起こってしまう。
テロ組織や政治家は、そんな人々の心理を操作して、対立や戦争を引き起こそうと企んでいるかもしれない、という想像力を働かせることが必要だと感じた。

とはいえ、自分でできることにも限界がある。
中国では、自国に不利な情報を国民が知られないように情報規制を敷いている。
Googleなどの検索でヒットしなければ情報がないのと同じで、世界の人たちが知っていることも、自分たちは知らないまま、ということも起こり得る。
管理者が情報規制を敷いて情報が入ってこなくなってしまえば、国民は知る手段がなくなる。
情報が拡散されまくって洪水に流されてしまうこともあれば、意図的に無知にさせられることもあり得る。
それだけ情報の取り扱いは重要な時代になっていて、簡単に操作される世界になっているんだな、と身につまされる。

人々が情報に扇動されるのは、そこに「物語」があるからだ。
人の心を動かすようなストーリーが、世界の在り方を変えていく。
みんなに寄り添うような感動や共感を与えることができれば、インフルエンサーのように人気が出ることもあるだろう。
逆に、みんなを恐怖や不安を煽るようなことをすれば、人々はいざこざが起き、社会は分裂し、戦争に発展することもある。
情報だけではなく、背景にどんな「物語」が語られているかによって、善にも悪にも傾いてしまう。
自分がどんな情報に反応しシェアするのか、どんな物語を世界に広めたいのか、どんな世の中にしていきたいのか、一人一人の選択が未来を変えると言っても、大げさではないような気がしている。

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