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空を飛ぶパラソル / 夢野久作にハマるきっかけとなった短編集

初めて夢野久作さんの作品を読んだ。
そして一気に夢野久作のファンになってしまった。
こんなに面白いと思えたのはいつ以来だろうと思うほど。
いや、今まで読んできた小説だったり実用書も面白い本はあったんだけれど、がっつり著者にハマったのは、夢野久作が初めてかもしれない。
この人の著書を続けて読みたいと思ったのも初めて。
それほどまでにぼくの心を鷲掴みにした『空を飛ぶパラソル』。

ミステリー短編集

この本は夢野久作の短編が集まっている。
「空を飛ぶパラソル」から始まる前半は探偵小説のようでもあるし、「いなか、の、じけん」は田舎のちょっとした面白い出来事がショートショートで描かれている。
かと思えば、後半も事件ものが続くが、前半が「明」だとすれば、後半は「暗」といった感じ。
ちょっと陰湿な、ゾクっとするような短編が続き、コメディからサスペンスまで幅広い引き出しを持っているんだな、という印象を強く受けた。
特に「いなか、の、じけん」がクスッと笑えるような短編が多かったのに、後半の「復讐」から始まる部分はガラッと印象が変わったので、まるで別の本を読んでいるような感じがした。

表題にある「空を飛ぶパラソル」は、ある新聞記者が電車に乗っている時に、一人の女性がその電車に投身自殺を図り、その現場を目撃した記者はネタができると思って彼女の死体の元に駆け寄り、所持品などを漁って身元を改めた。
その女性は地元で名のある医者のスキャンダルに関係あることを知った記者は、警察の情報を待たずに新聞で特集を組んだ。
しかし警察は水面下で医者を追っていて、あと少しで追い詰めるというところだったのに、新聞記事のせいで医者に証拠隠滅を図る機会を与えてしまった。
記者がとった行動により事件の黒幕を取り逃がしてしまう、という皮肉的な終わり方。
さらに記者は別件で、事件を追っていくうちに孤独な老人を自殺に追いやり、その家族も死んでしまうという、己の行動が不幸を招いてしまうという、両方とも苦味のある結末を迎えてしまう。

滲み出る面白さ

このころの文豪というか、このころの小説は人物のセリフの言い回しが独特な感じがして、現代では見られないような表現も所々見られるのだけど、それがまた味わい深くて、親近感というか温かみがあるというか、ほんのりした気持ちになるのがまた好きなところでもある。
こういうのを読むと、現代の小説と違っている表現もまた、古典の魅力の一つなんだろうな、という気がしてくる。
さらに個人的に親近感を抱いたのは、「空を飛ぶパラソル」の舞台が福岡県だということ。
ぼくも福岡県出身なので、知っている地名が出てきたときは「福岡県が舞台なのも珍しいな」と感じたものだ。
そういえば『ドグラ・マグラ』も舞台も現代の九州大学がモチーフになっているし、夢野久作自体も福岡県出身なので、そういうところでもファンになった要素の一つかもしれない。

夢野久作はジャンル的にはサスペンスやミステリーが主なもので、代表的な『ドグラ・マグラ』をはじめとして、ゾクっとさせたり捻りが効いている感じがして、一癖も二癖もあって、一筋縄では終わらない物語をしているように感じる。
ある意味で読後感は残る作品だけど、それがまた面白みを深めていて、こういうのが好きだなぁと、自分の好きなジャンルを見つけたような嬉しさもある。
もう基本的に良いイメージしか持てなかったので、絶賛してしまうのだけど、個人的にはすごく面白かった、の一言に尽きる。

最後に、「いなか、の、じけん」の中から、面白かった一節を控えておこう。
「つまりお前達二人はスイートポテトーであったのじゃナ」
「・・・違います・・・スイートハートです・・・」
「フーーーム。ハートとポテトーとはどう違うかナ」
「ハートは心臓で、ポテトーは芋です」
「ドッチもいらざるところで芽を吹いたり、くっつき合うて腐れ合うたりするではないか・・・・アーーーン」

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