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貧しき人々 / 人とのつながりが、生きる強さを与えてくれる

40代くらいの、役所に勤める男性マカールは、10代後半くらいの、うら若き女性ワーレンカの近所へ引っ越した。
彼らは文通によってお互いの近況を伝え合い、唯一の話し相手で、なんでもさらけ出せる相手でもあった。
マカールが近所にやってきてたのは新年を過ぎた頃のようで、春の訪れと同時に、2人の文通も穏やかに始まっていく。
彼らは決して裕福とはいえず、むしろお金に困っているくらい困窮しているけれど、お互いに気遣い合い、励まし合いながら、日々をなんとか乗り切ろうと奮闘している。
2人は頻繁に手紙をやりとりしている中で、自分の過去の出来事を話し、最近の近況を話し、困っていることや悩みを共有していた。
お互いのことを分かり合えているような気がしているが、微妙にすれ違っているようにも感じる。
特に顕著なのが、贈り物に対するお互いの主張だ。

マカールは、役職の階級的に高い方ではなく、そのため、今以上に出世を望むことは叶わなかった。
仕事ぶりは模範的で献身的で可もなく不可もなく、与えられた仕事をきちんとこなしていていた。
マカールは生活してくための貴重な給与の中から、愛しのワーレンカを喜ばせるために使っていた。
気持ち程度にお金を送り、花を買ってやり、お菓子を送っていた。
マカールはワーレンカのことを親戚のように思っており、彼女のためになんでもしてあげたい、力になってあげたい、といつも文通でその思いを吐露してた。
しかしワーレンカは、彼のわずかな給与の中から、自分のためにお金を使ってもらうのは気がひける、大変申し訳ないから、もう二度とお金を使わないでほしい、大切に気遣ってくれるその気持ちだけで十分だから、私のために使うのではなく、自分自身のために使ってほしい、と何度もなんどもマカールに伝えている。
しかしマカールは再三の忠告を聞き入れず、彼女のために色々と贈り物をすることをやめなかった。

ワーレンカの言い分はもっともだった。
自分の忠告も聞かず、マカールは彼女のためにお金を使っていたから、たびたびお金がなくなる事態に陥っていた。
職場から前借りしたり、友人から借りたりしていた。
そしてお金を借りるあてがなくなると、やけを起こし、深酒に浸ったりする醜態を晒していたからだ。
ワーレンカは、そんな彼の姿を見て嘆き、みっともない姿を見せないでほしいと思っていたのだ。
マーカスもまた、自分の身なりがボロボロなのを気に病んでいた。
靴底は破れ、洋服のボタンが半分ないような有様では、金を借りようとしても足元を見られて、誰も貸してくれないだろう、きちんとした服装をして、しゃんと背筋を伸ばしていた方が、お金を借りるときにも有利だし、職場の同僚からも変な目で見られずに済むだろう、と手紙で書き綴っている。
最初の頃は彼女への贈り物が多かったマーカスも、後半はお金が足りなくなり、彼女から逆に支援してもらう回数が多くなったように感じる。

マカールは度々ワーレンカの家を訪れ、一緒に食事や語らいをしていたようだ。
その光景を目撃した周りの住民は、彼ら 2人のことをあれやこれやと噂し、ある事ない事でっち上げ、冷やかしや嘲りの対象となっていた。
マカールは、貧乏人にだってプライバシーはある、貧乏人だって尊厳ある人のように扱われてしかるべきだ! と貧乏人の扱われ方に正当性を求めていた。

ワーレンカといえば、伯爵の屋敷で働いていた両輪のもと、幼い頃は活発に動き回る快活な少女時代だったようだが、老伯爵がなくなり、職を解雇された父親は、家族を連れて都会へと引っ越した。
しかし、都会に来てからというもの仕事はなく、日毎に貧しくなり、家庭環境は最悪になり、病で父親を亡くしたり、衰弱した母親の看病に明け暮れ、自身も病弱な身になるなど、苦労が絶えない人生を送っていた。

そんなワーレンカの元に、結婚話が持ち上がる。
彼女はその相手を好きになれず、むしろ嫌っている風だったが、背に腹は変えられない、このまま衰弱して死んでいくか、それとも我慢してお嫁さんになり、そのぶん裕福な暮らしをするか。
彼女はマカールに相談するものの、結局ワーレンカは結婚することを選んだ。
ワーレンカはマカールに結婚のための準備を手伝ってもらい、彼は街中を駆け回り、彼女の要望に応えた。
しかし実際のところ、マカールは彼女の結婚には反対しており、自分のもとを去らないでほしい、あなたがいなくなれば自分は誰と話しをしたらいいのか、日々の心の拠り所がなくなってしまうではないか、自分が内職を探してもっと稼いで不自由なくしてあげるから、結婚なぞするな! と、なかなか自己中心を発揮しつつも、最後までワーレンカとの別れを嘆き悲しんでいた。

貧乏な生活から抜け出すことは難しい。
堅実な生活をして、倹約に努め、浪費を削る。
いざという時のために少しずつ貯金する。
ワーレンカもいっているように、必要なものは、まず自分のために使うのだ。
身なりを清潔にし、人から尊敬を持って扱われるような身なりをすること。
ワーレンカは模範的で現実的な考えをしていたと言えなくもない。
逆にマカールは衝動的で刹那的なようにも感じられる。
彼のように借金をしてばかりでは、自分の首を絞めることにもなる。

良いことでも嫌なことでも、文字にして書き出し、人と共有し、伝え合えるということは、人にとって、心の平安さにつながるような気がする。
胸の内に止めるのではなく、言葉として書き出すことによって、自分の気持ちに整理もつくし、客観的に考えられるようにもなる。
どんなに貧乏でも、貧乏をものともせず耐えて来られたのは、文通によって話す相手がいたからこそではないだろうか。
もし一人きりだったら (たとえ召使いがいたとしても) 、お互いに正気を保つことは難しかったかもしれない。

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