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スイス・アーミー・マン / 死んでいたはずの死体が蘇り、故郷への旅路を切り開く

ハンクは一人の友人と出会った。
その友人は、名前をマニーといった。
ハンクは海で嵐に巻き込まれ、遭難し、無人島にたどり着いていた。
彼は無人島で話し相手もなく、孤独な日々を過ごし、助けが来ることも望み薄だった。
ハンクは一人で着ることに耐えかね、このまま寂しく生きていくよりは、いっそのこと死んだ方がマシだと思い、首に縄をくくりつけ、首と吊って死のうとしていた。
そんな彼の目の前に、マニーは突如として現れる。
マニーはハンクを救うために遣わされた、唯一の希望のように感じられた。
しかし残念なことに、マニーはすでに死んでいた。

その死体は常にオナラを鳴らしていた。
それは人体が腐敗する時に発生したガスが、オナラとして吹き出しているように見えた、最初は。
しかしそのオナラは通常のオナラとは全く違っている。
勢いよくかき鳴らすそのオナラは、海の上を突き進もうとする勢いだった。
ハンクはマニーの死体に飛び乗り、サーフィンボードさながらにマニーを操り、人が住む陸地へとたどり着くことができたのだ。
マニーはハンクの救世主となった。
そして、死体役を務めたのは、あのハリー・ポッターで主役を務めた、ダニエル・ラドクリフだ。

ハンクは、自分の命を救ってくれたマニーを担ぎ、自分の故郷を目指していた。
いくら死体だからとはいえ、自分の命を救ってくれた恩人を、浜辺で見捨てておくわけにはいかないではないか。
しかし、なぜその死体がマニーという名前だとわかったのか。
なぜなら、その死体が喋ったからなのだ。
その死体は完全に死んでいたはずだった。
ただあまりにもオナラがひどかっただけのこと。
死体としては変わっている。
だがその死体は、普通の死体ではなかったのだ。
マニーは突然口をきき始めた。
そしてハンクと意思疎通ができるほど、はっきりとした意識をしていた。
自分で自分の体を動かすことはできないものの、ハンクは驚きと、それから喜びが彼を駆け巡る。
マニーは過去の記憶がないようだった。
自分が何者かで、どこから来たのかも忘れているようだった。
ハンクは思い出させるために、マニーにさまざまなことを語って聞かせる。

ハンクには想いを寄せる女性がいた。
だけど、彼は控えめな性格から、声をかけられないままでいた。
ハンクはその女性の名前を知りたがり、話をするきっかけを探していた。
そんな彼の姿を見たマニーは、ハンクの役に立ちたいと思い、もしかしたら生前に会っていたかもしれない、もしかしたら恋人だったり、夫だったりしたかもしれない。
記憶を取り戻すことができれば、君の役に立つかもしれない、とまくし立て、ハンクとともに様々な趣向を凝らし、ハンクを女性に変装させてまで、その行方を楽しんだ。

彼らは楽しいひと時を過ごしつつも、故郷に帰るために前進していた。
マニーは愉快な友人で、様々な特技を持っていた。
彼の体から火花が飛び散ることを発見したハンクは、マニーの体を使って焚き火をすることができるようになった。
オナラが噴き出すお尻に栓をし、空気の勢いを口から発射することで、ものを遠くに飛ばしたり、獲物を仕留めることができた。
体の中に水を貯めておくことで、水筒の代わりにすることもできた。
マニーの人間の死体離れしたその能力で、ハンクは数々の困難を乗り切ることができた。
もはや死体としての扱いでもなければ、友人に対する扱いでもなく、ただの道具として扱っている、ように感じられなくもないシュールさがある。
しかし、彼らの間には揺るぎなき友情がある。
恋愛を語り、下ネタを語り、ともに笑い、ともに興に耽る。
もしかしたらこれは全てハンクの想像の世界なのではないか、死後に夢見ている虚構の世界なのではないか、と感じるほど、生身の人間と半生半死の人間のやりとりが続く。

マニーは思ったことなんでも口にする。
それは疑問に思ったことも、忌憚なく問うことにも現れている。
ハンクは想いを寄せる女性に声をかけることができなかった。
自分は醜くて、ブサイクで、相手にしてもらえないと感じていた。
でもマニーは、誰か一人でも認めてくれる人がいてくれるなら、ハンクは醜くなんかない、と背中を押す。
どんなに人から避けられようとも、認めてくれる人が一人でもいれば、それは自分にとって勇気となる。
それが友人であれば、なおさら心強いのではないか。
「なぜ?」と問うマニーの言葉に、ハンクを通して、できない理由を探している自分に気づく。

冒頭からぶっ飛んでいて、終始ぶっ飛んでいた。
ハンクが創り出す世界観は、どれも手が込んでいて、創作の才能が飛び抜けていた。
森の中で家を作ったり、バスを作ったり、劇場を作ったり。
あれだけなんでも創り出すことができれば、マニーと 2人でいつまでもひっそりと暮らすこともできたんじゃないか、たまに街に行くぐらいの生活が幸せだったかもしれない。
なんてふと思ったりもした。
ユーモアとシュールが入り混じった、面白い作品だった。

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