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ザ・バットマン / 犯罪に侵食された街で胎動する狂気

めちゃくちゃ気になっていた『ザ・バットマン』を鑑賞。
個人的にはすごく期待を裏切らない感じで、とても良かった。
重くて、暗くて、混沌とした世界観にどっぷりと浸れる。
余韻が抜けないうちに記事を書こうかと思うのだが、内容が濃すぎて、うまく書ける気がしない。

今回のバットマンは、本当にバットマンしている。
というのも、登場シーンのほとんどがマスクを被ったままで、中身のブルース・ウェインとして登場するシーンはかなり少ない。
マスクを被った姿こそ本当の彼の姿、マスクを被っている時が本来の自分になれる。
もはやブルース・ウェインが仮の姿であるかのように。
バットマンとして居ることで「復讐」することに集中でき、そのほかの雑多なことには関心を示さない。
まさに悪と戦うためだけに生きる男の姿。
さらに今回のバットマンは、真相を追うことに重点を置き、必要な戦闘は最小限にとどめている。
アクションシーンは見せ場でもあるが、派手な立ち回りはせず、堅実な印象の方が強い。
その印象は、彼の立ち居振る舞いにも表れている。
バットマンは決して慌てることなく、一歩一歩の歩みに力強さを感じ、非常に余裕を感じさせる。
ズシリと重みを感じさせるその一歩は、何物にも恐れを感じず、泰然とした厳格さを漂わせている。

バットマンの世界は、犯罪で溢れかえっている。
正義をなそうとする者の数は少なく、政治家や警察、検察など、法と秩序を司る者たちの中にも、裏社会の人物たちと関わり合い、自分たちも利益にあやかろうとしている。
市長も警察も検察も、マフィアに弱みを握られ、彼らの駒と成り下がっている。
どんな人物もスキャンダルを抱えており、表沙汰になり失脚しないようにマフィアの力を借り、その代わりに便宜を図る、という構図になっている。
ゴッサムを牛耳っているマフィアには 2大勢力があり、ファルコンとマローニがそれぞれ勢力を拡大しているが、マローニはファルコンの一計によって監獄へと送られているようだ。

ブルースの父親トーマスは、汚職やスキャンダルがはびこるゴッサムにおいて珍しく、正義を貫いた人だったといわれている。
ブルースは父親の正義を信じていたが、父親もマフィアとの繋がりが持った可能性を否定できない。
彼の死にはさまざまな憶測が飛び交い、真実は簡単に浮かび上がりそうにない。
彼は慈善事業として街を再開発する計画を進めていたが、道半ばで妻とともに夜道を襲われ、殺されてしまった。
トーマスが打ち立てた慈善事業の資金にハゲワシどもが群がり、街はさらに混沌の中へと進んでしまう。

トーマス・ウェインは市長選の中で、街の再開発を公約に掲げた。
彼の再開発を喜んだ者の中に、孤児であるリドラーがいた。
リドラーは再開発によって街が健全になり、孤児でも住みやすくなるとこを夢見ていた。
しかしその計画は頓挫し、慈善資金を横領した者は私腹を肥やした。
そして街の貧しい者たちは打ち捨てられ、存在を忘れ去られていった。
リドラーは会計士として、再開発の資金の行方の結末を知り、「復讐」する綿密な計画を練り上げていく。
真の再開発をするためには、汚れた政治家や権力者は必要ない。
私腹に肥えた者たちや金を持った者たちの真の姿をさらけ出し、悪にはびこっているゴッサムの姿を浮かび上がらせようとする。
街を牛耳る権力者たちは、我々に嘘をついている。
見かけは立派な人物に見えても、裏では取引を行い、私腹を肥やし、保身に走っている。
犠牲になるのはいつも弱者である市民たちだ。
真実を光のもとにさらけ出し、弱者たちが手をとりあい、街を再興しなければならない、と呼びかける。
権力者の罪は継承する。
再開発の公約を掲げながらも、裏ではマフィアとつながっていたウェイン家。
生き残りであるブルース・ウェインを生かすことはできないとして、リドラーはブルースを殺そうと計画する。
街を見守る彼を殺すことで、「再開発」を進めることができる。
ブルースは計画にとって邪魔な存在なのだ。

ゴッサムは悪がはびこっている。
悪が悪を呼び、犯罪の連鎖はとどまるところがない。
その混沌とした世界観が、重奏でズッシリとした音楽に現れている。
どこまでも深く底がなく、次々と湧き上がってくる犯罪の芽。
深く潜ろうとすればするほど深みにはまり、抜け出せなくなる。
そんな底知れぬ世界観を見事に表現している音楽だと感じた。
正義をなすものは少ない。
でも、正義の側につくものは確実にいる。
汚職がはびこる警察の中でも、ゴードンは純粋に正義を貫き、バットマンに力添えをする。
彼がいるからこそ、バットマンは事件に深く関われるのだろう。

バットマンは「復讐」の権化と化していた。
その存在自体で人々を震え上がらせ、街の犯罪の抑止力を誘発する者。
「復讐」への恐怖が街を支配し、常に目を光らせていることで、悪を根絶しようと目論んでいた。
しかし街には恐怖よりも希望が必要だ。
弱き者へ手を差し伸べ、味方となる存在が。
復讐は次の復讐を生む。それでは復讐の連鎖が続くだけ。
悪の連鎖を断ち切るために、希望となる光が必要だ。
若きバットマンは、苦境に立たされた市民の姿を見て、自分のあるべき立ち位置を見つけ出す。

ヒーローのような華やかさを見せつけるのではなく、混沌とした現実の重みをひしひしと感じさせるような、リアルさを前面に押し出したような印象を受けた。
重厚な音楽と世界観は、かなりぼくの好みだった。
これこそが犯罪が立ち込めるゴッサムとバットマンの世界観に、とてもマッチしていると感じた。

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