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へイター / 世論の影響の危うさ

法学部で学んでいたトマシュ・ギエムザ。
彼は論文を盗用したとして除籍処分となってしまう。
引用をつけ忘れただけだと主張するも、法律を学ぶ者にとって致命的なミスである、として。
なんとも厳しい処分で、不運な境遇だなあと感じていたが、今後の天界から振り返るに、意図的にやったのではないか? と疑念すら湧き上がってくる。
トマシュは内面に怒りを抱えていたのだろうと思う。
彼の身の上ははっきりせず、過去に家族に何かがあった雰囲気は醸し出されるも、詳細は語られない。

クラスキー家の金銭的支援で大学に通っていたトマシュは、娘のガブリエラに恋心を抱いていた。
久々に再会した家族とガブリエラはいったい自分にどんな印象を持っているのか。
トマシュはわざとスマホを置き忘れ、会話を盗聴していた。
彼は自分がゴミのように扱われているのを知ってしまう。
大学にも支援者にも見放されたトマシュ。
それでも嫌われていてもガブリエラのことが気になる彼は、彼女の存在があったからこそ正気を保っていたのではないか、と感じられる。

自分を認めて欲しい。
人間誰しも承認欲求を持っている。
バーで偶然広報会社の社長に巡り合った彼は、その行動力でインターンへと滑り込む。
彼はインターン期間中にある Youtuberの評価を落とさせ、活動停止へと追い込むことに成功する。
この成功によって社長から認められ、本格的に働くことになる。
彼は今まで社会からさげすまされていた。
自分が無力であり負い目を感じていた。
そんな自分でもやり方によっては影響力を与えられるということに気づいた。
その方法が SNSを通してユーザーを扇動することだった。

倫理という垣根を取っ払い、他人を陥れる手段に走ってしまった。
トマシュはそのことに痛みは感じつつも、それ以上に他人を操ることができる快感が上回ってしまい、万能感に満たされたのではないだろうか。
個人的に驚くべきところはトマシュの行動力である。
目の前にあるチャンスをものにしようと進んで挑戦し、危険を呈してまでも推進する行動力。
倫理など関係なく、やることはやる。
冷徹で冷静な彼の才能が、広報の仕事によって開花されていく。

トマシュは広報会社の仕事を通して政治の世界に足を踏み入れ、クラスキー家が支持している候補者パヴェルの陣営に入ったことで、彼は一目置かれるようになった。
しかし実際はパヴェルの信用を落とすことが目的だったのだ。
裏では過激派をネットで焚き付け、その中の一人の男性にパヴェル失墜の犯人になるよう工作を仕掛ける。
トマシュはパヴェルの集会で男に襲撃させる。
避難するため建物を出ようとしたが、ガブリエラに遭遇してしまった。
どれだけ無下にされようとも彼女への恋心には抵抗できず、その場に立ち尽くす。
身を呈して襲撃した男に殴りかかり、トマシュは英雄としてもてはやされる。
だが全ては自分が仕掛けたこと。
倫理を超えた彼のしたたかさが際立っていた。

誰もが情報を発信できる時代となり、メディアに踊らされる人々が増えている現実を示唆している映画
とも言えるだろう。
自分が信じたいものを信じ、同じ信条を持っている人が集まってコミュニティが形成される。
政治の世界では推進派と反対派の抗争が激しさを増す。
己の主張をネットに投稿し共感者を増やす。
サクラによって意図的に世論を誘導する。
その脆かさを描き、警告を鳴らしているように感じられた。

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