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最後の決闘裁判 / 真実と名誉をかけて対決する元親友たち

14世紀フランスで行われた決闘裁判。
従騎士のル・グリに強姦されたとして、マルグリットという女性が訴えを起こし、騎士であり夫のジャン・ド・カルージュが後見人となって裁判を求めたというもの。
「強姦をしたか、されたか」は当事者によって受け取り方が異なり、意見が割れてしまう。
夫のカルージュは、全てを神の手に委ね、正しい方が勝利に導いてくださるとして、決闘裁判を国王に申し込み、裁判の結果、決闘裁判が行われることとなった。

女性軽視の時代

今でこそ男尊女卑や性差別はタブーとなっているが、14世紀といえばまだまだ階級社会で、男性優位の世界だった。
女性は男性に仕えるものであり、妻は夫の所有物という位置付けだった。
女性の立場は低く、男性に楯突こうとする人は少なく、辱められても声を上げることはせず、黙ってやり過ごすのが当然だと、当の女性たちでさえ思っていた。
実際にカルージュの母親も強姦された過去を持っていたようだが、黙って耐え忍んできたという。
当時では、そもそも強姦されたかどうかは本人の主張であって、証拠が示されなければ偽証ではないかと疑われても仕方がなかった。
証拠がない以上裁判で勝利することは難しく、偽証だと判断された場合には、裸にされて木にくくりつけられ、火あぶりの刑にされるという残酷な結末が待っていた。
裸にされ火あぶりで焼かれるぐらいなら、黙って耐え忍んだほうがいいと多くの女性は判断するだろう。
偽証罪で死にたくないだろうから、女性は辱められても訴えることはしないだろう、という男性の傲慢もあり、強姦の被害にあった女性は、当時多かったのではないだろうかと考えてしまう。

マルグリットはル・グリに強姦されたことを夫のカルージュに訴えた。
強姦を証明するのは難しいし、女性の地位も低かった当時、彼女の行動は勇気ある行動に思われる。
しかし、マルグリットは裁判で負けた場合、どんな運命が待ち受けているのか、裁判当日になるまで知らなかった。
夫のカルージュは決闘裁判を申し込んだが、もし負けてしまえば夫を失うことになり、自分も火あぶりの刑に処されてしまうことを裁判中に知ることになる。
マルグリットは己の非常な行く末に打ち震えるも、ここまで来た以上引き返すことはできない、それに強姦されたことは事実なのだから、神が正しい者を守ってくださると信じ、意志を貫いた。
もしマルグリットが事前に負けた場合のことを知っていれば、彼女は訴えを起こすことはせず、他の女性と同じく黙って耐え忍ぶ方を選んだだろう。
マルグリットはお腹に子供を宿していたのだ。
生まれて来た子供に父親と母親がいない不憫さを味わわせるぐらいなら、子供のためにも耐える方を選んだと言う。

裁判ではマルグリットに厳しい追及が行われる。
夫のカルージュと結婚して 5年経っているのにずっと子供ができなかった。
それなのに、ル・グリに犯されてすぐ妊娠しているのはどういうことなのか。
セックスに快感を感じなければ子供を授かることはできない、と当時は考えられていた。
夫のカルージュとのセックスには快感を覚えなかったから子供ができなかったのではないか?
ル・グリにレイプされたと言っているが、快感を覚えたからこそ子供が授かったのではないか?
果たしてそれは強姦ではなく、激情を感じたからではないか?
と、裁判という公の場所であられもない会話が繰り広げられる。
セックス事情を語る方も聞く方も忍びなく、裁判に居合わせた王女もいたたまれないほど、卑猥な言葉で追及されるマルグリット。
女性軽視の時代性が頂点に達する一場面だろう。

それぞれの人物の捉え方

カルージュ、ル・グリ、マルグリットの 3人の視点から描かれる決闘裁判までの道のり。
それぞれはどのように相手のことを見ていたのか、人によって受け止め方・捉え方が違うという点でも印象的な作品。
カルージュは妻のマルグリットに対して優しく愛情を持って接していた。
友人のル・グリに強姦されたと告白したマルグリッドに対しては優しく慰め、報いを受けさせるために立ち上がる良い夫であり続けた。
しかしマルグリットからすると、夫のカルージュは自分の名誉を重んじることにしか興味はなく、夫婦の営みも男の子 (後継ぎ) を作るためでしかなく、ずっと妊娠しない自分に対して苛立っているように見えていた。
辱められたことを告白した時も、慰めるどころか自分の名誉を傷つけられたことに怒りを感じているようにしか見えず、愛情を持って接してくれていると感じることはなかった。
夫と妻、どちらの見方が正しいのか真実はわからない。
愛情表現の違いが認識の違いにつながっているように感じる。

強姦を犯したル・グリは、少なくとも合意の上ではないことに罪の意識を感じていたが、神父の前で懺悔したこともあり、罪は許されていると感じ、決して自分の非を認めようとはしなかった。
彼はもともとカルージュと親友関係にあったが、領主との関係、領土の所有権争い、役職の就任の問題が度重なり、親友の関係は悪化していた。
だが、ル・グリは親友の妻を一目見て恋に落ちてしまい、自分のものにしたいという欲望から彼女に手を出してしまう。
女性は辱められても夫に告げることはないだろうという思い込んでいたが、マルグリットはカルージュに告白し、卑劣な行いが周囲に拡散され裁判を起こされたことにより、親友と決別することとなってしまう。
領主による待遇の違いと恋の激情が、友情を超えてしまったのだろう。

最後の決闘シーンは手に汗握る展開だった。
当時の敗者の扱い方の残酷さ、女性軽視の問題、受け取り方の違いなど、多くのことに示唆が富んでいる作品だった。

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