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皮膚を売った男 / 彼女と結婚するチャンスを掴むために

自由への切符

シリアに住んでいたものの、国外追放の身となってしまったサム・アリ。
彼はヨーロッパに流れ着き、職を得て働き、暮らしていた。
とある有名なアーティストの展覧会に足を踏み入れたサムは、スタッフから食事を漁りに来た難民と勘違いされてしまう。
サムはそんな気は毛頭なかったものの、乞食のような扱われ方に憤慨し、その場から立ち去ろうとするも、同じ中東の血を持つアーティストに引き止められた。
恋人引き裂かれたことと、自由を謳歌できない境遇に嘆いていたサムは、現代アーティストの巨匠から、自由を得る代わりに、「作品」となることを提案される。
その「作品」とは、サムの背中に「VISA」のタトゥーを入れることだった。

「VISA」というのは、海外で滞在するために必要なものだ。
パスポートを持っていたとしても、VISAがなければ入国することができない。
そして VISAは誰でもが取得できるとは限らない。
日本人のパスポートは世界最強と言われるほど、VISAなしで数ヶ月滞在できる国が多いらしい。
でも他の国、新興国の人々は VISAを取得するのに大変な苦労や手続きが必要になる国民もいる。
VISAが手に入るということは、自由への扉が開く、ということも言える。
世界にあふれる「モノ」は VISAなど持たなくても、自由に国を行き来することができる。
でも人間は VISAがなければ自由に入国することもできない。
現代では、人間は「モノ」以下なのではないか?
では、人間が自由に入国できるように、最初から VISAを刻んでいればいいのでは?
人間が「モノ」と同等になることで、自由を手に入れられるはずだ。
そんな皮肉と意図を含んだ芸術的な作品が、世界のいろんな方面に問題を提起することになる。

恋人との結婚のために

人間の体に直接作品を描き、それを芸術的作品として展示する。
VISAを背中に掘ったサムは美術館の展示品として、その背中を飾ることと引き換えに、望みの場所で暮らせるようになった。
美術館で 1日中ずっと背中を晒し続ける毎日。
自身がシリア系の出身だということもあり、シリアの人権団体は、サムが不当に搾取され人権が侵害されている、
シリア人に対しての差別的行為だ、と騒ぎ立てられる。
しかしサムは、自分の意思で「作品」になることを選んだので、余計なお世話だと言って彼らを一蹴する。
そもそもサムが背中に VISAを彫ることに同意したのは、自由を得て恋人と結婚したかったからだ。
国内で「自由だ、革命だ」と言ったことが警察の目に止まり、国外追放され、恋人と引き裂かれてしまったサム。
その後、彼女は別の男と結婚することになってしまったため、サムの望みは絶たれることになってしまうのだが。

サムの作品は世界中に知れ渡り、多数のコレクターが彼の作品を欲しがるためにお金を出した。
サムは展示のお呼びかかるたびに出向かなければならず、オークションに掛かけらることにもなり、だんだんと自由がなくなっているように感じたのかもしれない。
これ以上人の目に晒され、注目を浴びたくないと感じたサムは、オークション会場で騒ぎを起こし、拘留されることになる。
そこでようやくサムは静寂さを取り戻せたと感じることができた。
サムの背中に作品を描いたアートの巨匠は、役目を終えることを望んでいたサムの意思を尊重し、夫と別居したかつての恋人を呼び戻してサムを釈放させ、故郷に帰ったサムがテロ犯によって殺されたと嘘の情報を流し、彼らに本当の自由を与えた。

戦争に巻き込まれるシリア人たちの現状や、ヨーロッパで問題になっている難民のことにも触れながら、現代の自由は選ばれた人たちにしか与えられていない。
じゃあ体に自由の象徴である VISAを刻みさえすれば、誰でも海外に入国できる自由が得られるのではないか? というメッセージを投げかけている。
それで自由が手に入るなら、喜んで背中に彫ろう、と望む人は世界中に大勢いるのではないだろうか。

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