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異邦人 / 作品との出会いが、人生を変えるきっかけになる

『異邦人』というタイトルは海外文学のカミュにもあるけれど、今回原田マハさんの方の『異邦人』。
京都という街を舞台に、ある芸術家を見出したことで運命の歯車が動き出す。
春から冬にかけての 1年間の出来事を描き、同時に古都、京都の主な行事や美しい風景が描かれ、まさに目の前に立ち現れるかのように景色が思い浮かぶ。
絢爛さと優美さ、厳かさが身に迫る様は、『たゆたえども沈まず』で読んだ時と同じように、文化や空気を前面に感じさせる。

東日本大震災ののち、東京は原発の対応に追われていた。
多くの人の命が津波によって奪われ、原発から漏れ出す放射能の影響も問題視され、日本中が不安に駆られていた。
そんな慌ただしい頃に身ごもった菜穂は、放射能の被害から身を守るために、実家のある東京から、遠く離れた京都へと身を置くことになる。
ぼくは実際に訪れたことはないものの、京都という街は他人行儀な街である、とよく言われているようだ。
1100年という長い歴史を培ってきた都は、そう簡単に他人を受け入れないよそよそしさがある。
療養のために京都を訪れた菜穂も、それを感じていた。
よそ者はいつまで経ってもよそ者で、京都の奥深くには入っていけない。
しかし、京都に選ばれた人には、つまり京都をよく知り、京都に深く根を張っている人の先導があれば、閉ざされた扉が開くらしい。
菜穂は当初、京都に窮屈さを感じていた。
しかし母親の計らいにより、京都で有名な書道家のお宅に身を寄せたことを皮切りに、閉じられていた京都の扉が開かれ、よそ者から京都人へと変身を遂げることになる。

菜穂は、東京では有名な個人美術館の副艦長を務めており、芸術を見抜く慧眼を持ち合わせていた。
まだ無名の画家の能力を発掘し、目をつけられた画家はその後大成するなど、その審美眼は間違いのないものだった。
そんな菜穂は京都で、ある無名な画家の小作品に一目惚れし、陶酔した彼女は、その画家を自分が育てたい、という強い欲求にかられる。
その無名の画家は、京都では有名な巨匠のお弟子さんだった。
しかしまだ画壇としてデビューしておらず、師匠も人の目には触れさせたくない理由があるようだった。
菜穂は早く個展でも開いて、その存在を知らしめたいと考えていたが、芸術の世界は見えないしがらみがある。
師匠の許可を得ることなく弟子がデビューすることはないし、画廊や美術館も、先生との関係性を築いている以上、勝手に個展を開く危険をおかすことはできない。
芸術の世界は、人間関係の信頼がものをいう世界なのだ。

菜穂は当初、早く東京に帰りたいと望んでいた。
しかし気になる画家を見つけたこと、閉じていた京都の世界に踏み入れたことで、京都に根を下ろそうと考えていた。
そんな矢先、夫の画廊が経営危機に立たされ、実家の美術館が自分の大事なコレクションの一つ、モネの『睡蓮』を売却したこと、その裏で夫と母親が関係を持った事実を知り、彼女は京都で暮らし、京都で子供を産み育てることを決意する。
夫や家族は、東京に帰ってくることを強く望んでいたが、家族の中に自分の居場所はないと感じ、自分を受け入れてくれた京都に根を張ることを決める。

菜穂が目をつけた無名の画家・樹は、菜穂の妹だということを知る。
衝撃的な事実が明かされ、離れ離れになる夫からすれば悲しい結末。
そもそも実の両親とは血が繋がっていなかったということで、家族の中では「異邦人」であり、信じていた夫も育ての母親と密約を交わした時点で、夫婦からも「異邦人」となる。
そして「異邦人」として京都を訪れた菜穂は、書道家の先導によって京都に受け入れられていく。

無名の画家の樹はずっと「異邦人」と感じていたものの、菜穂によって居場所が与えられ、夫の一輝は義母と関係を持ったことで夫婦から「異邦人」となる。
受け入れられた者もいれば、失った者もいる。
いろんな立場の異邦人が描かれている。

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